恵まれた大自然の長野県阿智村へ

国道沿いをハナモモが彩り、山には若葉。環境省による全国星空継続観察で「星がもっとも輝いて見える場所」第1位にも認定されたことがある長野県阿智村。澄んだ空気と豊かな自然に抱かれるこの地域で、生産者が心地を注いで育てあげる稀少な超高級黒毛和牛が、今回ご紹介する「村沢牛」です。

「村沢牛」は、黒毛和牛専門店「銀閣寺大西」の指定牧場である「村沢牧場」で、生産者・村澤淳平さんがこだわりの方法で肥育する名品。全国の高級和牛のほとんどが産地名で呼ばれているのに対して、「村沢牛」は生産者の名前がそのままブランド名になった珍しい牛肉なのです。

きめ細かなサシととろけるような柔らかさ。脂を多く含んでいるのに上品であっさりしているという「村沢牛」は、最後のひと口まで飽きることなく食べられると評判の極上和牛です。

“幻の美味”とうたわれる「村沢牛」

村沢牧場を営む株式会社村沢畜産は、畜産業に携わって50年の経歴もつ牧場。ホルスタインの肥育から始まり、淳平さんの父・勲さんが和牛の肥育へと移行したそうです。勲さんは血統を三代先までさかのぼって調べ、極上の雌のみを吟味。独自に配合したエサを用いるほか、通常よりも長い22ヶ月から24ヶ月もの時間をかけて丹念に牛を肥育する方針をとっていました。

「品評会でもすでに高い評価を得ていましたが、村沢牧場の牛にことさら惚れ込んでくれたのが『銀閣寺大西』の大西社長。生産者の名前をつけたブランドとして育てていきたいと太鼓判を押していただき、1993年に『村沢牛』はブランド牛となりました」

ブランド存続の危機を超えて

こうして超高級和牛として揺るぎない評価を得ている「村沢牛」。今でこそブランドの品位が保たれていますが、存続の危機に陥ったこともあったそう。

「僕はもともと牧場を継ぐ気は無かったんです。けれど、父が病気になり、牧場の存続が危うくなった際『どうしても続けてほしい』と大西社長から懇願されました。その熱意にうたれて、牧場を継ぐことを決めました」

父・勲さんに学びながらの牛の肥育。とはいえ、相手は生き物。一頭一頭異なる子牛の状態を的確に見極める勘や知識を求められます。

「始めて2年ほどは試行錯誤の繰り返しで苦労の日々でした。知識を増やし、牛の管理を肌で覚えていき、ようやく3年後くらいに結果が出るようになった時は、本当に嬉しかったですね」と淳平さんは振り返ります。

年間出荷数、80頭。守り続けたい味

現在、出荷する和牛の9割以上がA5等級という村沢牧場。先代から受け継いだ独自のエサを、一頭一頭に適した量・配合で細やかに与えることに加えて、牛舎や水槽の清掃、敷料（牛の寝床に敷くもの）の交換にも心を配りながら愛情いっぱいに牛たちを肥育しています。

「とにかく牛がストレスを抱えないような肥育を心がけています。24時間気を抜くことができないので大変ですよ。それでもやはり、ブランドを維持したい。約30年前、個人ブランドが珍しい時代から父や大西さんが大切に守ってきた味ですから。他の多くの牧場とは異なり、年間出荷数80頭という規模の小さな牧場で、一頭一頭の品質を落とさないように、これからも丁寧に肥育していきたいですね」